Gallery - A boring story

『つまらない話』

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毎度つまらない話をひとつ。

振り返れば本当に馬鹿馬鹿しい話だ。全く意味不明に思う人もいるだろう。しかしこの経験は私の中で重要な意味を持ち、確かな実体を持ったひと夏の思い出として記憶に刻まれている。

突然ですが皆さんは子供の頃、こんな想像をしたことはないだろうか。

「ペンキを全身に塗ったら一体どうなってしまうのか」
誰しも一度は考えたことがあるだろう。

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こんなこと言っても理解してもらえないかもしれないが、私にとってそれは重要な疑問だった。

暇さえあれば、とにかくそのことばかり考えていた。授業中はもちろん、学校のイベントでボトルに入った大量の絵の具を見るたびに、ひとり空想に浸ってしまうのだ。

変な人だと思ってもらっても構わない。私の経験上、この話に心から共感できる人は10000人に1人、多めに見積もっても1000人に1人。運が良くて同じ学校に1人いるかいないかといったところだろう。

当然、――このことを周りの人に打ち明ける訳がない。

きっかけは何かと訊かれてもわからない。物心ついた時から既にそうだった。

それに加えて、変身願望も人一倍強かった。朝早くからやってるテレビアニメのかわいい主人公には目もくれず、脇役のちょっと動物っぽいキャラクターにどうしても視線が移ってしまう。

――気づけば、自分の中でケモノっぽさは憧れの対象となり、私もこんな格好してみたい……と無意識に思うようになっていた。

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たびたびそんなことを考えながら朝方目が覚めては、寝ぼけたまま布団の中で妄想しながら興奮していたのを今でも鮮明に覚えている。

「ペンキを全身に塗ったら一体どうなってしまうのか」
日に日にこの疑問は私の中の感情を支配していき、ある種の歪んだ"向上心"を育んでいった。

そんな中、ついに"それ"を実践できるチャンスが訪れた。

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玄関で両親を見送った後、窓から出発を確認。

親がここまで心配するのも無理はない。色々訳あって、過去最長のお留守番を任されたからだ。その期間、なんと……3日間だ。

ここからは思う存分羽を伸ばせる!――まごうとなき有頂天だ。

まずは用意された朝ごはんをとっとと平らげて、身支度を整える。

そして、近所のホームセンターに直行。

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店内に入るや否や、お目当ての品を物色する。

そそくさと塗料コーナーまで移動し、塗料の容器を手に取る。

色はあらかじめ決めていた。幾多もの色で綿密に脳内シミュレーションしてきた中で一番グッとくる色だ。

いや寧ろ……これ以外には考えられない!

ふと――隣にあった強力そうな水性ペンに視線が移る。ペイントの上から模様でも描いてやれば少しはアクセントになるだろう。――よし、これもだ。

加えて刷毛だ。

どうせ全身にペイントするつもりなのだから、わざわざ刷毛を用意する必要は無かったが雰囲気重視でこれもついでに購入。

「総計2,160円(税込)」

子供の私にとっては大金なはずだが、今回は不思議と高くは感じなかった。

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高まる期待に胸を膨らませながら急いで家に帰った。家を出かけてから、この間僅か20分――。

それからまっすぐ2階の自室へ向かい、部屋の奥にこっそりと隠していた箱から装着用のネコミミと尻尾を取り出す。

なぜこのようなグッズを持っているのか、――それについてはノーコメントだ。

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服を脱ぎ捨て、"変身グッズ"一式と共にお風呂場に入った。

早速、塗料のフタを開けて中身を確認する。

「黒い……。」

ここで黒という見た目のエグさを再確認する。

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少しだけ腕に塗ってみてから、すぐにシャワーで落としてみる。

今すぐ全身に塗りたい衝動をなんとか抑えている状態だったが、この確認だけは欠かせない。

親に似て、私はいつでも慎重なのです。

確認さえ済めばこっちのものだ。そして迷わず顔から塗りつぶした。

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思っていたほどペイントの臭いはキツくなかったし、感触も洗顔とそんなに変わらない。

――これは快感だ!

続けて首から下もどんどん塗っていく。徐々にテンションも上がっていく。

自分の身体が刷毛で塗りたくられているという事実にどことなく背徳感を感じる。

まるで物扱いされているかのような……これはクセになりそうだ。

しばしの間、初ペイントを堪能していた。

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――そんなこんなで、あっという間に前進真っ黒です! 背中もバッチリだ。

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そしてネコミミ装着。我ながらよく似合っている……。かわいい……!

これでも猫らしさが足りないと思った私は、一緒に持ち込んだ水性ペンを手に取り、猫ひげメイクを施した。

これがあるのと無いのではかなり印象が違う。大事な萌え要素だ。

仕上げに尻尾だ。

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「この達成感たるや!」
何よりも先に感じたのはこの感情だった。

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「はぁ~そろそろ乾いたかなぁ?」

ペイントに覆われた自分の身体をあちこち触りながらよく確認してみる。

実際、完全に乾いてしまうとすごく身動きがとりづらい!正直、ここで洗い流してしまいたいとも感じていたが、私の脳は更に刺激を欲していた。

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指の隙間やお尻の奥はまだ完全に乾ききっていなかったが、周りを汚さないように慎重にお風呂場から出た。

[とりあえず記念撮影]

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家の中を歩いてみては黒猫になりきっていた。

ほんの数分の間ではあるが、外にも出てみた。

げげっ!通行人!?
――ってあれ、スルーですか?見て見ぬ振りですか……あれあれあれ?

まあいいっか(良くない)。

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ペイントの上から服も着てみた。
「っていうか外出る前に着るようね普通(セルフツッコミ)」

これが思いの外、気持ち悪い肌触りだ……。
触れているのに、触れていないような感触?
乾いたペイントが紙やすりのように少し引っかかる感触?
なんていうか、何この……何?

それからテレビを見たり、ネットサーフィンしてみたり、ゲームもした。ホントはダメだけど今日はお父さんに内緒でVRも装着だ。

思い当たる全ての日常行為を実行した。

全てが新鮮で、はっきり言ってめちゃくちゃ楽しかった。

もちろん"アレ"も欠かさず行った。

こんな感じで丸一日、この格好のまま生活していた。

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――目が覚めると真っ黒に染まった自分の腕が視界に入ってくる。

楽しかった時間が過ぎてしまえば、現実が訪れる。
「後始末をしなくては……」

しかし、まだ半分くらい塗料が残っているではないか。
このまま廃棄するのももったいない!

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ここで昨日の記憶が蘇り、再びスイッチが入ってしまう。

「やっちゃう?……やっちゃうこれ~?」
(※といいつつ服は脱ぐ)

我を忘れて残りの塗料と共に浴槽に飛び込む。
そして、頭の上からペイントを被ってしまったのだ!

「やってしまった……//」

ここまでくると目を開けることすらできない。
自分は今どんなことになっているのか……。

間違いなくひどい状態だ。(←見えてない)
でも、それがいい……すごくゾクゾクします!

「ああ、私もうダメだなこりゃ……」

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顔から垂れてくるペイントをこれでもかというくらい全身に刷り込む。

ここを――こうすると……すごく気持ちいいにゃあ///

いけない、これ以上は。
気が狂ってしまう!

もう少し……もう少しだけ遊んだら、全部洗い落とそう。

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その後、大量のボディーソープを使って身体中のペイントをなんとか落とした。

最終的には少しだけ黒ずみは残ってしまったが、これくらいなら服で隠せるからいいだろう。

そして証拠隠滅。

普段から部屋は散らかし放題で、綺麗好きなんて言葉は程遠かったがこの時ばかりは念入りに掃除した。

「私、もしかして掃除の才能あるのでは」
なんてことを考えながら必死にこびりついた黒ずみをゴシゴシ。

家中に身体からボロボロ剥がれたペイントのかけらが散乱していて、掃除にはかなりの時間を要したことは言うまでもない。

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しかし思い返せば不思議なものだ。
絵具を全身に塗ってみただけなのにどうしてあそこまでハイになれたのだろうか。

やっぱり私はどこか変なのだろうか、仮に他の人が同じことをしたらどうなるのだろうか。

おっと、また1つ疑問が増えてしまった。

今度は思い切って友達も誘って一緒にやろうかな、なんてね。

「いや~我ながらよく似合っているな~
長ったらしい文章だけじゃつまらないから写真も上げとこうかなあ
派手にメイクしてるからバレないバレない!
そもそもこんなコアなブログを見てる人なんでほとんどいないんだよなあ
え~っと、服を着ている写真っと……」

一連の顛末をブログに書き残し、コンピュータの前から去った。

※この後、めちゃくちゃバズった



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